東京高等裁判所 昭和56年(行ケ)290号 判決
一 本件に関する特許庁における手続の経緯、本件発明の特許請求の範囲第1項の記載及び本件審決理由の要点が原告主張のとおりであることは当事者間に争いがなく、先願として引用された特願昭四三ー六七六六号(先願発明)の設定登録に至る経緯及びその特許請求の範囲の記載が本件審決認定のとおりであること、本件第一発明と先願発明とが、本件審決認定のとおり、ステアリングシヤフトに形成されたボールネジにボールを介して螺合しているボールナツトと、当該ボールナツトに形成されたラツクに噛合うセクターと、当該セクターを形成したロツクシヤフトとを備えた可変歯車比ボールネジ式ステアリング装置において、ステアリング装置の中央位置で最小のピツチ円直径を有し、ステアリング装置の回転角の増加に対応してピツチ円直径を連続的に増加させた歯形を有するギヤーとしてセクターを形成したことを特徴とする前記可変歯車比ボールネジ式ステアリング装置についての発明という点で一致すること、及び先願発明が本件第一発明を更に限定し、歯の左右圧力角を非対称としたラツクと、該ラツクとセクターとに与えようとするギヤ比の相対運動をさせて創成した歯形を有するセクターとを備えることを明記し、ラツクとセクターの歯形についての限定を加えているのに対し、本件第一発明にはそのような限定がないという相違点が存することは、いずれも原告の認めるところである。
二 取消事由に対する判断
1(一) 前記当事者間に争いのない本件第一発明の特許請求の範囲の記載及び成立に争いのない甲第二号証の一ないし四によれば、本件第一発明は、可変歯車比ボールネジ式ステアリング装置に関する発明であつて、従来のステアリング装置においては、歯車比を一定にするとステアリング装置の中央位置(自動車の直進時におけるハンドル位置)よりその回転角が左右に大きくなるにつれてハンドルの操舵抵抗力が大きくなつてハンドルが重くなるという欠点があつたため歯車比を大きく設定していたが、そのようにするとハンドルの切れ味(フイーリング)が悪くなり、特に高速走行時においてはハンドルのふらつきを生じて操縦の安定性が悪くなるという欠点が生じ、また、逆に歯車比を小さくすると、ハンドル操作がますます重くなるという欠点が生じることから、本件第一発明は、このような欠点を解消し、高速走行時にはハンドル操作に安定性があり、車庫入れの際のようにハンドルの切れ角が大きくなる時には操作が軽快にできるようなステアリング装置を得ることを目的として、本件第一発明の特許請求の範囲第1項記載のとおりの構成を採用したもので、右構成を採用したことにより所期の作用効果を奏し得たものであることが認められる。
(二) ところで、本件第一発明は、セクターの構成について、「ステアリング装置の回転角の増加に対応してピツチ円直径を連続的に増加しつつ前記ラツクとの噛合いが円滑に行われるようにロツクシヤフトの軸線方向、すなわち大端側から小端側に向つて正から負に転位量を減少させた特殊歯形を有するテーパーギヤーとしてセクターを形成」することを要件とするものであるところ、前掲甲第二号証の一ないし四によれば、右の構成については、本件公報の発明の詳細な説明の欄に右記載と同じ記載があるほかは、実施例についての説明文中に
(1) 「ラツク1と噛合うセクター2の歯形は、前述のようにステアリング装置の回転角が大きくなるにつれて歯車比が次第に大きくなるように変化させた特殊歯形に形成してある。従つてラツク1がステアリングシヤフト7の回転によつて一定速度Vで移動した場合、セクター2はステアリング装置の中央位置X―X´より左右に回転角が大きくなるに伴つてその回転の角速度ωが次第に小さく(おそく)変化する。これに対して従来のステアリング装置においては、歯車比を一定にしていたためセクターの回転角が大きくなつていてもその回転における角速度は常に一定であつた。」(甲第二号証の一第二頁第三欄第一〇行ないし第二二行)
(2) 「上記のようにラツク1とセクター2との中心間距離hが常に一定という条件のもとでラツク1とセクター2との噛合いにおける歯車比がセクター2の回転角の増大に伴つて大きくなるようにセクター2の歯形を特殊形状で構成した。」(同頁第四欄第八行ないし第一二行)
(3) 第1図のD―D´線断面(転位基準面)での歯形を示す第6図に基づいて、「ピツチ円直径……の変化……と変位角度……で与えられるX―X´線からY―Y´線までの分割線……との交点……を結んで構成する曲線(第5図に示されている点線イーロに対応する)が噛合いピツチ曲線でありこの曲線を基準とする転位量A0を最大転位量としA16を転位量零としてA0……からA16に向つてA0、A1、A2……A16と連続的に減少するような転位量を、セクターの回転角±35°(但し図示の実施例の場合)の範囲内で歯形に与えられることによつて本発明の特殊な歯形のセクターが得られる。」(第三頁第五欄第三〇行ないし第六欄第二行)との記載があることが認められるものの、他に右構成について具体的に説明した記載は認められない。
また、成立に争いのない乙第九号証によれば、昭和一六年五月八日に特許庁資料館(当時の特許局陳列館)に受け入れられた米国特許第二、二二六、〇三八号明細書にはテーパーギヤーを用いたステアリングギヤーが示されていることが認められ、成立に争いのない乙第一一号証によれば、三栄書房発行の「モーターフアン」昭和三九年七月号の第一〇三頁右欄第七行ないし第一〇五頁左欄第五行には、ボール・スクリユウ式ステアリングギヤーについての説明がなされており、そこには、ボール・ナツト側面のラツクとロツカーシヤフトセクター・ギヤーが噛み合う形式のものが我が国で非常に多く製作されていること、「ロツカーシャフトのセクター・ギヤーは普通のスパーギヤではなく、歯幅の全長にわたつて正転位から負転位まで連続的に転位したテーパになつているので、セクターギヤの切削角約7°だけ傾いた状態でボールナツトのラツクと噛み合うことができる。」との記載があることが認められ、右記載によれば、本件発明の特許出願前においてセクターを歯幅の全長にわたつて正転位から負転位まで連続的に転位するテーパーギヤーとすること、及び右テーパーギヤーが噛合いの連続性に寄与することは広く知られていたものと認められる。
(三) 前示本件第一発明の特許請求の範囲の記載と右(二)において認定した事実によれば、本件公報におけるセクターとラツクとの噛合いに関する説明は具体性を欠くものであつて、本件第一発明における「ラツクとの噛合いが円滑に行われるように」という構成は単なる希望要件にすぎず、また、テーパーギヤーについての「ロツクシヤフトの軸線方向、すなわち大端側から小端側に向つて正から負に転位量を減少させた」との限定も従来から知られていたテーパーギヤーの構造を説明しているにすぎないものと解するのが相当であり(なお、右構成のうち、「正から負に」と「減少」とは重複した表現とみられるから、「正から負に」には格別の意味がないものと認められる。)、更に、本件第一発明における「特殊歯形」とは、「ステアリング装置の中央位置で最小のピツチ円直径を有し、ステアリング装置の回転角の増加に対応してピツチ円直径を連続的に増加させた」テーパーギヤーであるセクターの歯形を単に言い換えたものにすぎないものと解するほかないのであつて、右各認定を左右するに足りる証拠はない。
2(一) 他方、前記当事者間に争いのない先願発明の特許請求の範囲の記載及び成立に争いのない甲第三号証の一及び二によれば、先願発明はボールネジ式ステアリング装置に関する発明であつて、従来のステアリング装置では、ハンドルの回転角に対するセクター歯車の回転比は一定であり、また、従来の楕円歯車の考え方でギヤ比を変化させようとすると、セクター歯元に切下げを生じたり、刃先が尖つたりして十分な噛合いをするラツク、セクター歯車機構を得ることができなかつたことや、従来の平行歯歯車の噛合せでは(特に非対称圧力角を有する場合)、噛合変化点において噛合断続が生じ、操舵力の引つかかりが生じるという欠点があつたことから、先願発明はこういう欠点を解消し、セクター歯車の相当全周歯数が少ない場合でもハンドルが回転するにつれてセクター回転角につれて広範囲にギヤ比が変えられ、ハンドルを大きく切る場合の操舵力を軽減することができ、また、操舵フイーリングを向上させることを目的として、先願発明の要旨のとおりの構成を採用したもので、右構成を採用したことにより、所期の作用効果を奏し得たものであることが認められる。
(二) そして、前掲甲第三号証の一及び二によれば、先願公報の発明の詳細な説明の欄には、先願発明において、「歯のピツチ、厚さ、高さを選定するとともに歯の左右圧力角を非対称としたラツク」を用いることとした技術的意味について、
(1) 「ラツク歯形は勿論ラツクのピツチ曲線上に配置するのであるが、場合によつてはセクター歯先のトツプランドが非常に小さくなる。これを避けるため、適当にピツチまたは歯厚を変えることが必要になる。」(同号証の一第二頁第三欄第一九行ないし第二三行)
(2) 「φ。はギヤ比の変化の割合によつて異なるが、実施例については、φ。=10°~15°見当であるから、ラツクの圧力角を23°30´にした場合、機構学的圧力角は7°~12°となり、セクター全周歯数が少ない場合には切下げは避けられない。以上のような理由によりギヤ比が大きくなつていく場合と小さくなる場合では圧力角の増減の方向は異なるが、歯形左右の圧力角は非対称とせざるを得ない。」(同欄第一〇行ないし第一八行)
との記載があることが認められ、右記載によれば、ラツクの歯のピツチ、厚さ、高さの選定やラツク歯の左右圧力角を非対称とすることは可変歯車比を得ることとは直接関係がなく、セクター歯先のトツプランド(歯先の平坦な部分)が小となることの防止やセクター歯の切り下げ防止と関係するものと認められるのであつて、前記「ギヤ比が連続的に大きくなるように」との文言は「セクターと噛み合うときのラツクのピツチ曲線が実質的に凸部状になる」との文言にかかるものと解するのが相当である。
(三) また、前示のとおり、先願発明においては「ラツクとセクターとに与えようとするギヤ比の相対運動をさせて創成した歯形を有し、かつ、勾配歯に成形された」セクターを具備することを要件としているところ、前掲甲第三号証の一、二によれば、先願公報には、「勾配歯」の形状について第2図に具体的な形状が記載されているほか、その奏する作用効果に関して、「勾配歯のセクターを使用することにより噛合変化点において噛合断続がなくなり(一般にこれを噛スジ噛み合いという)スムーズに噛合う」(甲第三号証の二一記」の「7」項)との記載があることが認められるのであつて、右各記載からすれば、右勾配歯は従来から知られていたテーパーギヤーそのものであることが認められる。そして、本件第一発明は「物」の発明であつて製造方法についての発明ではないから、「ラツクとセクターに与えようとするギヤ比の相対運動をさせて創成した歯形を有し」とは、製造方法的記載によつて歯形の構造を特定しようとするものと解するほかなく、創成歯切法によつて製造すること自体を構成要件と認めることはできない。
3 取消事由(一)について
原告は、本件審決認定の相違点に加えて、本件第一発明と先願発明との間には、<1>先願発明では、ラツクは、その変位に応じてラツクとセクター端部の噛み合いになるにつれて、ギヤ比が連続的に大きくなるように歯のピツチ、厚さ、高さを選定しているが、本件第一発明では、ラツクの構成にこのような限定はない、<2>本件第一発明では、セクターはラツクとの噛合いが円滑に行われるようにロツクシヤフトの軸線方向、すなわち大端側から小端側に向かつて正から負に転位量を減少させた特殊歯形を有するテーパーギヤーとして形成されているのに対し先願発明にはこのような構成はないところ、本件審決はこれらの相違点を無視して、両者はみかけ上僅かに相違するにすぎないとし、先願発明が本件第一発明の下位概念で記載された発明に相当するとの誤つた判断をした旨主張するので、以下これらの点について検討する。
(一) <1>の主張について
先願発明のラツクが「歯のピツチ、厚さ、高さを選定するとともに歯の左右圧力角を非対称とした」ものであるのに対し、本件第一発明のラツクは、歯の構成について限定がないことは、前示のとおり原告も認めて争わないところであるから、右のような限定を加えた先願発明のラツクは、本件第一発明のラツクの一実施例に該当するものと解するのが相当である。そして、本件審決はラツクの歯の「ピツチ、厚さ、高さを選定する」との点について言及するところがないが、これらの要素は歯の左右圧力角を非対称とするか否かということと同様にラツクの形状に関する限定事項であることに変わりはないのであるから、これらの点について本件審決が言及しなかつたことをもつて、本件審決の判断に影響を及ぼすものとは認められない。
そうだとすれば、本件審決のこの点についての判断にその結論において誤りがあるとはいえないのであつて、原告の<1>の主張は採用することができない。
(二) <2>の主張について
(1) 前記二1(二)及び(三)並びに2(二)及び(三)において認定したとおり、本件第一発明における「ラツクとの噛合いが円滑に行われるように」との構成は具体的構成を伴わない単なる希望要件にすぎず、また、先願発明のセクターも「ロツクシヤフトの軸線方向、すなわち大端側から小端側に向つて転位量を減少させた歯形を有するテーパーギヤーとして」形成されているものと認められ、更に、本件第一発明における「特殊歯形」とはステアリング装置の中央位置で最小のピツチ円直径を有し、ステアリング装置の回転角の増加に対応してピツチ円直径を連続的に増加させたテーパーギヤーであるセクターの歯形を指称するものと解されることからすると、先願発明が本件第一発明と同様の構成からなるセクターを有することは明らかである。
(2) 原告は、右の点に関連して、本件第一発明のセクターの歯形を形成するための具体的方法としては、創成歯切法が有利であるとしたうえで、本件第一発明のセクターの歯形は先願発明のセクターの歯形と比べて顕著に相違する旨主張するが、本件公報においては、ラツクの形状が特定されておらず、加えて、ラツクとの噛合いが円滑に行われるためのセクターの具体的構成も記載されていないのであるから、本件第一発明のセクターの構成は、単にその軸方向の大端側から小端側に向つて転位量を減少させたテーパーギヤーの範囲を出るものではないといわざるを得ないのであつて、本件第一発明のセクターの歯形が先願発明のセクターの歯形を排除しているものと解することはできないから、原告の右主張を採用することはできない。
(3) 更に、原告は、本件第一発明においては、セクターをテーパーギヤーとなすことにより噛合いの連続性を解決した旨主張するが、前記二2(三)において認定したとおり、本件第一発明の特許出願当時、テーパーギヤーの構成及びテーパーギヤーが噛合いの連続性に寄与することは周知の事項であつたものと認められるばかりか、先願公報にも「勾配歯のセクターを使用することにより噛合変化点において噛合断続がなくなり(一般にこれを歯スジ噛み合いという)スムーズに噛合うため操舵フイーリングの向上を図る」と記載されていることが認められることからすると、本件第一発明のテーパーギヤーがそれら周知のテーパーギヤーと異なる構成のものであるとか、異なる作用を奏するものであるとは認められない。
以上のとおり、原告の<2>の主張は、採用することはできない。
(三) よつて、取消事由(一)は理由がない。
4 取消事由(二)について
(一) 前記3に説示したところによれば、本件第一発明は先願発明の上位概念に相当し、両者はその基本的技術思想において異るところはなく、ただ、先願発明はラツクの歯の構成を限定している意味において本件第一発明の実施例の一つと考えられるところであるが、原告は、そうであるとしても、両者の技術思想は異なるものであり、両者に特許を与えても二重特許の問題はない旨主張する。
(二) 両発明の対比について再言すれば、前認定のとおり、本件第一発明と先願発明とは、ステアリング装置の中央位置で最小のピツチ円直径を有し、ステアリング装置の回転角の増加に対応してピツチ円直径を連続的に増加させた歯形を有するテーパーギヤーとしてセクターを形成したことを特徴とする、ステアリングシヤフトに形成されたボールネジにボールを介して螺合しているボールナツトと、当該ボールナツトに形成されたラツクに噛合うセクターと、当該セクターを形成したロツクシヤフトとを備えた可変歯車比ボールネジ式ステアリング装置についての発明という点で一致しているのであつて、両者の相違するところは、先願発明は、「ステアリング装置の中央位置で最小のピツチ円直径を有し、ステアリング装置の回転角の増加に対応してピツチ円直径を連続的に増加させた歯形を有するテーパーギヤーとしてセクターを形成する」という本件第一発明に共通する可変歯車比を得るための基本的な技術手段に加えて、切下げや歯先の尖りを防止するための構成を付加したものであつて、両者は、ステアリング装置の左右の位置でラツクとセクターの歯車比を大きくすることにより、ハンドルの回転角が大きくなつても操作を軽快に行わせるという点において、その基本的な技術思想が異なるところはないものということができる。
原告は、先願発明が特殊形状の歯を有するラツクを使用することをもつて技術思想が相違する旨強調するが、両発明ともラツクを必須の構成要素としており、前記のとおり、本件第一発明はラツクの構成について何ら限定を付していないのであるから、先願発明の右構成をも包含するものであるだけでなく、先願発明の右構成は両発明の基本的技術思想に関する可変歯車比とは直接関係なく、セクターの切下げや歯先の尖りを防止するための手段であつて、その意味において、右の点は、前記基本的技術思想を前提として更に改良を加えるための付加手段にすぎないものといえるのであつて、こうした点を看過してなす原告の右主張は、失当といわざるをえない。そして、先願発明は、本件第一発明の技術思想・技術手段を前提しているものであるから、右技術思想・技術手段は、すべて先願発明によつて開示されているところから、本件第一発明が公開されても発明の奨励と技術の進歩に何ら寄与することにはならないことはあきらかであり、また、技術的に新規性のない後願に特許を与えることは、新しい発明の公開の代償として発明を保護しようとする特許制度の趣旨からみて妥当でないこと(本件第一発明にあつては、新規性がないどころか、技術的に劣る。)、更には、先願発明の権利消滅後にも本件第一発明の権利が存続することは、第三者にとつて先願発明の権利期間が実質的に延長されたことになり、不合理である(先願発明よりも上位の概念で権利範囲の広いものが延長されることになり一層不合理である。)こと等の点を考慮すると、本件第一発明に特許権を付与することは二重特許を禁止する特許制度の趣旨にもとることになることも明らかである。
(三) また、原告は、広い先願に対し、限定を加えた狭い後願が特許を許されることがあるのであるから、順序が逆であつてもいい筈である旨主張するが、本件においては、先願発明は可変歯車比のステアリング装置を既に開示しているのであつて、本件公報によるも、本件第一発明がラツク歯の形状についての限定要件を除いたことによる特段の効果を認めることができないから(むしろ、切下げや歯先の尖りが生ずるおそれのあることは原告の自認するところである。)、選択発明の場合と比較しても特許を認める意義はなく、原告の主張によれば、既に先願の限定された発明があるのに、それと範囲を重複して(更に広く)新たに先願発明と対比し特段の技術的意義のない第二の特許を認めることにほかならず、何らの技術的進歩に寄与するところのない発明を特許として認めることになり不当なものといわざるをえない。
(四) 以上のとおり、いわば本件では改良発明が先行し、これと基本的に技術思想及び構成を同じくするが、改良手段の付加されていない発明が後行したものであつて、この後行した発明、すなわち本件第一発明について、あえて特許を付与することは相当でないことは明らかなところであるから、原告の主張はいずれも失当であつて、取消事由(二)は、理由がない(なお、原告の援用する最高裁判決は、事案を異にし、本件には適切ではない。)。
5 そうであれば、本件審決には原告主張の違法の点はなく、本件審決の認定判断はその結論において正当というべきである。
三 以上のとおりであるから、本件第一発明は先願発明と同一発明と認めるのが相当であつて、その主張の点に判断を誤つた違法があることを理由に本件審決の取消しを求める原告の本訴請求は、理由がないものというほかない。よつて、これを棄却することとする。
〔編注1〕本件発明の要旨(本件特許の設定登録時の明細書の特許請求の範囲の記載)は左のとおりである。
1 ステアリングシヤフトに形成されたボールネジにボールを介して螺合しているボールナツトと、当該ボールナツトに形成されたラツクに噛合うセクターと、当該セクターを形成したロツクシヤフトを備えた可変歯車比ボールネジ式ステアリング装置において、ステアリング装置の中央位置で最小のピツチ円直径を有し、ステアリング装置の回転角の増加に対応してピツチ円直径を連続的に増加しつつ前記ラツクとの噛合いが円滑に行われるようにロツクシヤフトの軸線方向、すなわち大端側から小端側に向つて正から負に転位量を減少させた特殊歯形を有するテーパーギヤーとしてセクターを形成したことを特徴とする前記可変歯車比ボールネジ式ステアリング装置。(以下「本件第一発明」という。)
2 特許請求の範囲1に記載の可変歯車比ボールネジ式ステアリング装置において、ステアリングシヤフトの軸線に平行なピツチ線上にほぼ等しいピツチ、ほぼ等しい圧力角の標準歯形を備えているラツクを備えていることを特徴とする前記可変歯車比ボールネジ式ステアリング装置。(以下「本件第二発明」という。)(別紙図面(一)参照)
〔編注2〕本件における図面は左のとおりである。
別紙図面(一)
<省略>
<省略>
別紙図面(二)
<省略>